人の土俵で褌を取る

気になったニュースの備忘録+α

渋野日向子

女子ゴルフ全英オープン優勝

中日春秋
 夏目漱石虞美人草』の序盤で、登場人物が言う。<愛嬌(あいきょう)というのはね-自分より強いものを倒す柔らかい武器だよ>。にこやかで憎めない表情やしぐさは、時に強みになる。漱石が解釈する愛嬌だろう
▼その柔らかい武器の強みをみたような思いだ。女子ゴルフの全英オープンで優勝し、日本勢に四十二年ぶりのメジャー勝利をもたらした渋野日向子選手である
▼震えがくる勝負どころで、殺気立つはずの苦境で、みせたのはいつも笑顔だった。乱れそうになる心を元に戻すようにからっと笑い、ショット、パットを決めた。味方も増えた。ギャラリーから差し出される手が時とともに増えていった
樋口久子さんがメジャーを初めて制して以来、日本勢は何度かメジャータイトルに迫り一歩及ばなかった。強い者を倒すための何かが足りなかったのだろうが、世界的に無名の二十歳がこれまでにない武器を持って、壁を突破してみせた
▼最初のプロテストで失敗している。日の当たる場所にずっと居続けたわけではないそうだ。笑顔にも謙虚や無欲が漂っているように思えた。自身のゴルフより豪雨被害の故郷岡山を語る時のほうが感極まってみえたのも印象深い
▼秋の花、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)は思わぬ場所にいきなり咲いて人を驚かす。漱石の句。<曼珠沙華あっけらかんと道の端>。明るさの中に人柄がにじむ。新しい大輪の開花である。
2019年8月7日 中日新聞 中日春秋
https://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2019080702000118.html

曼珠沙華*1・・・あるある。

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