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山本善彦裁判長

高浜原発差し止め 3号機を10日に停止

 滋賀県の住民二十九人が関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを求めた仮処分の手続きで、大津地裁(山本善彦裁判長)は九日、住民側の主張を認め、運転を停止するよう命じた。決定はすぐに法的拘束力を持つため、関電は営業運転中の3号機を十日午後に停止すると明らかにした。裁判所の判断で稼働中の原発が止まるのは初めて。

大津地裁仮処分「新基準、安全性に疑問」

 東京電力福島第一原発の事故後、原子力規制委員会の新規制基準に適合し、再稼働した原発の運転が禁じられたのも前例がない。差し止めを求めた住民は立地県の福井ではないが、高浜原発の半径七十キロ圏内で暮らしている。原発の安全性をめぐり、立地県ではない全国の自治体の議論にも一石を投じた。関電は決定を不服として、近く異議と決定の執行停止命令を大津地裁に申し立てる。

 山本裁判長は決定で、「原発の安全対策を講ずるには福島第一原発事故の原因究明を徹底的に行うことが不可欠」と指摘。原因究明が進まない中で、新規制基準が策定されたこと自体を「非常に不安を覚える」と批判した。

 その上で、関電が「新規制基準に基づき合理的」と主張した過酷事故対策や外部電源に頼る緊急時の対応、七〇〇ガルと想定する基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)について「危惧すべき点がある」と判断。新規制基準への適合だけでは安全性の立証は不十分だと明示した。

 また、原発から半径三十キロ圏内の自治体に策定が義務付けられている住民の避難計画に関し「国主導で早急に策定されることが必要」と言及。規制委の審査対象外となっている現状に疑問を呈し、国に避難計画を視野に入れた規制基準をつくるように求めた。津波対策にも疑問が残るとし「住民らの人格権が侵害される恐れが高いにもかかわらず、関電は安全性の確保について立証を尽くしていない」と結論づけた。

 住民側が大津地裁に高浜原発差し止めの仮処分を申し立てたのは二回目。前回は二〇一四年十一月、今回と同じ山本裁判長が「再稼働が差し迫っていない」との理由で却下した。

 二基は、規制委が一五年二月、新規制基準に適合していると判断。福井地裁は同四月、福井県の住民らの訴えを認め、運転差し止めの仮処分決定を出したが、同十二月に同地裁の別の裁判長が関電の異議を認め、決定を取り消した。

 関電は3号機を今年一月二十九日、4号機を二月二十六日に再稼働させたが、4号機は機器トラブルで停止している。

◆冷静で賢明な判断
 <申立人と弁護団の話>画期的な決定だ。避難計画を規制基準に取り込むことを求めるなど、大津地裁は公平、冷静で賢明な判断をした。関電には、美しい国土を将来に残すため営業政策の見直しを求める。

◆立証理解されず遺憾
 <関西電力の話>科学的・技術的・専門的知見から立証してきたが理解されず、極めて遺憾で承服できない。速やかに不服申し立てをし、命令を取り消していただくよう安全性の立証に全力を尽くす。

◆稼働中で初 司法の独立示す
<解説>
 運転中の原発を司法が止めた。関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた大津地裁の仮処分決定。現実に電力を供給し、止めれば一日数億円のコストがかかるとしても、福島第一原発事故と同様の過酷事故が起こる危険性はないのか。ふつうの市民感覚を土台にした判断といえる。

 原発事故後、原発の運転差し止めを認めた司法判断は、いずれも福井地裁の同じ裁判長による、大飯原発の運転差し止め判決、高浜原発の運転差し止め仮処分決定の二件。これらは運転停止中の原発に対する判断だった。今回の決定前、住民側弁護団は「運転中の原発を止めるのは、裁判官にとってはかなりのプレッシャーだ」といい、厳しい結果を危惧した。だが、高いハードルは乗り越えた。

 3・11から五年を前に、原発事故で故郷・福島を追われた被災者はいまだ四万人を超える。こうした現実を前に、今回の決定は「新規制基準に適合」という科学的な専門性にひるまず、「司法権の独立」に応えたといえる。今後の原発訴訟の裁判官に与える影響も大きいだろう。再稼働へひた走る政府も、司法判断を謙虚に受け止める必要がある。
(大津支局・角雄記)
中日新聞(CHUNICHI Web)
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2016031002000064.html

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