人の土俵で褌を取る

気になったニュースの備忘録+α

テロリスト

テロリスト

 その「テロリスト」が、面会の場所に指定したのは、ロンドン郊外のファストフード店だった
▼エチオピア東部で八年前の九月、医療支援に携わっていた日本人医師らが誘拐された。犯人は誰か、事件の背景に何があるのか。取材する中で探し当てたのが、エチオピア政府が「テロ組織」と呼ぶ反政府勢力の幹部で、英国亡命中のA氏
▼質素な暮らしぶりを思わせる服装で現れた彼は、「どれほどの人々が無残に殺されているか。母国の現状を少しでも伝えてくれるなら、取材に協力しよう」と約束し、その言葉を誠実に守ってくれた
▼そんなA氏がなぜ「テロリスト」と呼ばれるのか。国際的人権団体によると、エチオピア政府は、その地に生きる人々の暮らしをないがしろにする形で開発を強引に進め、反対する住民を弾圧している。昨年秋以降だけで数百人もの市民が治安部隊に殺されているとの報告もある。だが、かの国の政府の論理では、為政者に抗(あらが)う者が「テロリスト」なのだ
▼一昨日まで開かれたアフリカ開発会議で、日本は各国政府と「対テロ協調」をうたったが、テロの言葉の陰には、そういう現実も潜む
リオ五輪の男子マラソンで銀メダルを獲得したエチオピアのリレサ選手は、政府の弾圧に抗議するため両手を交差し「×」をつくりつつ、ゴールした。五輪の熱狂が消えても、消し去ってはならぬ光景だ。

中日春秋(朝刊コラム):中日新聞(CHUNICHI Web) 2016年8月30日
URL:http://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2016083002000104.html