人の土俵で褌を取る

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知里幸恵(ちりゆきえ)

知里幸恵(ちりゆきえ)

中日春秋
 <銀の滴(しずく)降る降るまわりに 金の滴降る降るまわりに…>。美しい神の歌で知られる『アイヌ神謡集』を残した知里幸恵(ちりゆきえ)は十九歳の時、言語学者金田一京助の自邸で亡くなっている。抜きんでた言語能力や作文の才能を見いだし、東京に迎えた金田一は幸恵の死後、日記を見つけた
▼<私はアイヌだ…アイヌなるがゆえに世に見下げられる。それでもよい…おお愛する同胞よ>。アイヌ民族と知れると、低く見られてしまうおそれがあった時代である。記されていたのは、偏見を前にして、幸恵の胸中にあった苦しみと悲痛な異議だろう
▼明治政府の同化政策により、多くのアイヌが貧困に陥り、蔑視にさらされてきた。土地を奪われ、日本語使用を強いられた。北海道旧土人保護法は、一九九七年まで続いた。残念ながら、今なお偏見や経済的な格差に苦しむアイヌがいる
アイヌ民族支援法が先日、成立した。独自の文化の維持、振興に向けた交付金制度の創設が盛り込まれた。法律として、初めて「先住民族」であると明記されている
▼幸恵の嘆きからは、百年近い時が過ぎる。大きな一歩である半面、遅い一歩でもあるだろう。これからは、実効性にくわえて、何をすべきかの議論も必要になる
金田一は、「とこしえの宝玉」であると幸恵の業績をたたえている。アイヌなるがゆえに、偉業が曇ることのない世の中を願う。
中日新聞 中日春秋2019年4月27日
https://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2019042702000125.html

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