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人の土俵で褌を取る

気になったニュースの備忘録+α

山口絵理子

山口さん著『裸でも生きる』

開発学を学んでいた山口絵理子さん(31)は大学四年の時、チャンスをつかんだ。憧れの国際援助機関で働く機会を得たのだ
▼だが、そこにあったのは上から目線の官僚機構だった。自分の目で途上国の現実が見たい。パソコンで「アジア 最貧国」と検索したら、バングラデシュと出た
▼現実は想像を超えていた。街にあふれる物乞い。水害のたび失われる何千もの命。腐敗した政治と、霧散する巨額の国際援助。逃げ出したくなっても、とどまり続けたのは、必死に、ただ生きるために生きる人々の姿に打たれたからという(山口さん著『裸でも生きる』)
▼日本の四割ほどの狭い国土に一億五千万人が暮らすバングラデシュの最大の資源は、マンパワーだ。安い労働力は外国企業をひき付け、繊維産業で輸出を伸ばしてきた
▼しかし、工場の労働環境は劣悪だった。従業員は俯(うつむ)いてミシンを踏んでいた。山口さんは、作り手も売り手も誇りを持て、使う人に大事にされるモノ作りを目指した。困難を極めたが、二十四歳で起業した「マザーハウス」のおしゃれなバッグは今や、途上国と先進国を結ぶ新たなビジネスの一つの象徴だ
▼ただ、そうした取り組みはまだ例外だ。先日は防火設備が粗末な縫製工場で火災が起き、百人以上が亡くなった。際限ない低価格競争の陰で、必死に生きる人々が踏み潰(つぶ)される現実がある。
中日新聞:中日春秋:コラム(CHUNICHI Web) -2012年11月28日

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