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ベテルギウス


2012「爆発直前!?赤い巨星 ベテルギウス」 1


2012「爆発直前!?赤い巨星 ベテルギウス」 2

巨星ベテルギウス、迫る大爆発青く輝く天体ショー


超新星爆発のイメージ

冬の夜空で赤く輝くオリオン座の1等星「ベテルギウス」が注目を集めている。近い将来、星の最期である「超新星爆発」を起こすとみられているからだ。天空に突然、月ほどの明るさが出現する希代の「天体ショー」は、いつ始まるのか。地球の間近で起きる歴史的な現象を見逃すまいと、世界中の天文学者がその瞬間を待っている。(原田成樹)

ベテルギウスは太陽の20倍の質量を持つ恒星。直径は太陽の1千倍もあり、肉眼でも見えるほど非常に大きく膨らみ、赤く輝いている。「赤色超巨星」と呼ばれる年老いた星だ。
恒星は核融合反応で輝いており、燃料の水素が燃え尽きると一生を終える。太陽の8倍以上の質量の星は、寿命が近づくと赤色超巨星となり、最期は大爆発を起こして突然、輝く「超新星」になる。
質量が大きい星ほど明るく輝くので燃料の消費が早く、寿命は短い。太陽は約100億年の寿命の半分が過ぎたところだが、ベテルギウスの寿命は約1千万年で、いつ爆発してもおかしくない終末期にある。
地球と同じ銀河系にあり、距離は地球から約640光年。1987年に隣の銀河の大マゼラン星雲で観測された超新星の16万光年と比べると、その近さは際立っている。銀河系の超新星爆発が観測されれば約400年ぶりの大事件だ。
こうした背景から近年、ベテルギウスの観測が盛んに行われ、縮小や変形など“異変”の報告が相次いでいるが、爆発の明確な兆候はとらえられていない。
超新星爆発の直前には、素粒子ニュートリノが放出される。これをキャッチして史上初めて爆発の「事前検知」を目指すのが、岐阜県飛騨市神岡町にある東京大宇宙線研究所のニュートリノ観測施設「スーパーカミオカンデ」だ。
ニュートリノを検出すると、米国にある「超新星早期警報システム」(SNEWS)に直ちに通報。イタリアや南極にある観測施設も参加しており、早ければ30分で超新星爆発かどうかを判定し、各国の天文機関に一斉連絡する段取りだ。
ニュートリノは星の中心部が燃え尽き、周囲の物質が中心に向かって落下する「重力崩壊」のときに放出される。落下の衝撃波が中心から外側へ伝わり、星の表面に届くと大爆発が起きる。ベテルギウスは爆発の約33時間前にニュートリノが放出されるという。
銀河では通常、30〜50年に1度の割合で超新星爆発が起きる。ベテルギウスに限らず、いつ爆発が起きても不思議ではない。
昨年末、スーパーカミオカンデを訪れるとセンサーの定期点検中で、観測は止まっていた。実験代表者の鈴木洋一郎教授(素粒子物理学)は「こうした瞬間も、もしニュートリノが来たらどうしようと気が気でない」と打ち明けた。
ベテルギウスが爆発したらどうなるのか。東京大数物連携宇宙研究機構の野本憲一特任教授(星の進化論)らの解析では、最初に表面が100万度の高温になり、X線を放つ。肉眼で見える可視光が出てくるのは1時間後で、1万度で青色に輝くという。
ここから星は膨らみ始め、2時間後に全天で太陽の次に明るい恒星「シリウス」と並ぶ明るさとなり、3時間後には半月の明るさに到達。面積当たりでは半月の1千倍、満月の100倍のギラギラ度だ。この明るさが3カ月ほど続く。オリオン座は冬の星座なので夏に爆発すると日中しか見られないが、昼間でも十分に分かる明るさという。
色は次第に暖色系へと変わり、3カ月後はオレンジ色から黄色に。その後は温度が下がるにつれて暗くなっていき、450日後には金星と同じマイナス4等星。肉眼で見える限界の6等星になるのは4年後だ。
爆発が起きれば世界中で観測が始まる。国際宇宙ステーション(ISS)にある日本の監視装置「MAXI」でX線をとらえるほか、可視光や赤外線などで詳細に観測すれば、星の表面ガスの熱運動や衝撃波の伝わり方が分かる。
東京工業大の河合誠之(のぶゆき)教授(宇宙物理学)は「現状では重力崩壊から爆発の過程を理論で説明できていない。衝撃波は全方向に一律なのか、特定の方向に強く伝わるのかなどが分かれば、高温・高密度での物理の理解が進む」と話す。
ニュートリノの観測でも大きな成果が期待できる。ベテルギウスの爆発で検出されるニュートリノは推定約2500万個。1987年に小柴昌俊氏が先代のカミオカンデで計測し、ノーベル賞を受賞した11個とは、けた違いの多さだ。
ニュートリノ観測は星の中で起きていることを外からレントゲンで見るのと同じ」と鈴木教授。ニュートリノ天文学の発祥の地となった「カミオカ」が、再び世界を驚かす日が来るかもしれない。

爆発時期は予測困難

ベテルギウスをめぐっては、「2012年に爆発か」といった科学的根拠の希薄な情報がインターネットなどで広がっている。だが野本教授によると、爆発時期は「100万年以内」としか分かっていない。表面を厚いガスに覆われ、内部の様子が分からないため時期の予測は困難だ。
生態系への影響では、明るさは植物の光合成に悪影響を及ぼすほどではない。河合教授によると、超新星爆発で生物に有害な強いガンマ線が放出されるのは、星が回転していたり、質量が非常に大きい場合などに限られ、ベテルギウスではまず心配ないという。
産経ニュース 2012.1.5 08:08

超新星爆発2世紀には観測記録定家の日記にも登場


超新星爆発の発見と研究の歴史

人類の超新星爆発の観測記録は2世紀までさかのぼる。中国の歴史書「後漢書」は185年のケンタウルス座の超新星爆発に言及した。日本では鎌倉時代の歌人、藤原定家が1006年におおかみ座の超新星爆発が観察されたことなどを伝え聞いて、日記「明月記」に記した。
夜空に突然現れ、しばらくすると消えていく様子から「客星」と呼ばれ、昔の人は一種の畏れを感じたに違いない。
キリスト教的史観に基づく天動説の矛盾を突き崩すきっかけともなった。デンマークの天文学者、ティコが1572年に発見した超新星爆発は、「天空は不変」という当時の西洋の宇宙観に衝撃を与えた。
彼の詳細な星空の観察記録は弟子のケプラーによって分析され、「惑星は太陽を一つの焦点とする楕円(だえん)軌道を回る」などの惑星3法則が生まれ、天文学の近代化が進んだ。
ノーベル物理学賞との関係も深い。爆発後の中心部では、規則的な電波信号を出すパルサー(中性子星)という天体ができることがあり、この発見で英国のヒューイッシュ氏が1974年に受賞。宇宙の加速膨張の発見で昨年受賞した米国のパールマッター氏らは、非常に明るい超新星爆発の観測によって遠方の宇宙の動きをとらえた。
星の進化や生命とも密接につながっている。超新星爆発で宇宙に散らばった塵(ちり)やガスは、重力で再び集まり、新たな星の材料になっていく。生物を構成する元素の多くは星の内部で作られ、爆発により放出されたもので、地球や人間も超新星爆発がなければ生まれなかった。
星の壮絶な最期である超新星爆発は、新たな誕生の始まりでもあるのだ。
産経ニュース 2012.1.5 08:09