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「戦争とゾウ」にはもうひとつ実話があった…

「戦争とゾウ」にはもうひとつ実話があった…

2009年8月16日 10:38 カテゴリー:コラム > 春秋

「戦争とゾウ」にはもうひとつ実話があった。東京の子ども2人がお願いごとを持って夜行列車で名古屋まで行ったことから物語は始まる。昭和24年のことだ

▼「東山動物園のゾウを1頭貸してください」。上野動物園にはいなくなったので東京の子どもたちは見たくてたまらない。2人は、民主主義教育として各地に設けられた小中学生の子供議会の代表だった

▼東山動物園には2頭いた。園長が当局に頭を下げて毒殺処分は免れていた。2人は市長にも会い「東京ではみんな待っているんです」とお願いした。しかしゾウは体が弱って動かせない。大人たちが出した結論は−

▼列車で子どもたちを名古屋まで運ぶことにした。「象列車」の名でその年、関東や関西などから数万人を運んだ。のちに出版された絵本「ぞうれっしゃがやってきた」(小出隆司作、岩崎書店)でも語り継がれる

▼当時の鉄道事情からは容易なことではなかった。行政や鉄道関係者らが力を合わせて困難を乗り越えた。優しくて賢いゾウはいつの時代も少年少女の人気者と知っているから、応えてやりたかった

▼ かなった夢には続きがあった。インド政府から上野動物園にゾウが贈られた。「ゾウがほしい」という声が伝わっていたのだ。子供議会の請願を日本の国会が「子どもでも基本的人権は大人と同じ」と受理したことがきっかけだった。終戦間もない日本はそんな光景もはぐくんでいた。


=2009/08/16付 西日本新聞朝刊=


DATE:2009/08/25 14:27
URL:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/115628